キャンディード序曲


Candide Overture: Leonard Bernstein conducting - YouTube

 

“「なんで、お前らは弾けんのや。こんな素晴らしい指揮者で弾けんちゅうのは、お前らの練習不足や!今から帰ってすぐに練習せえ!ユタカは全部わかってる。こいつはすべてわかってるんや。こいつの指揮の通りにみんなが演奏すれば、素晴らしい演奏になるんや」”

というセリフを目にしたときはさすがに、「関西弁でバーンスタインが喋るわけないやろ!」と全力でツッコミを入れずにはいられなかった。が、これこそが二人の真実のやりとりだったのだ。音楽とお互いへの愛と情熱が、どのセリフからも溢れていた。レニーとのお別れまで辿り着いたときには泣いた。

 

佐渡裕『僕はいかにして指揮者になったのか』を読んだ。

フルート専攻から一転して指揮者の道を歩んだ自称「雑草」こと佐渡さんは、音楽に愛をもって全身全霊でぶつかり、何にも属さずただ自らの尊敬する指揮者の後を追い続けた人。いまや世界を飛び回る有名指揮者でありながら、庶民的で開放的なキャラクターは変わらず、日曜朝9時のお茶の間(?)の人気者でもある。

佐渡さんといえばシエナでキャンディード、汗を散らしながらダイナミックな指揮をする関西のおもろいおっさん、という表層的知識しかない私は、この本を読んでそのデビューがいかに鮮烈なものであったかと、彼の熱さの裏にある真摯さを思い知るに至った。「自分が欲しい音を引き出すためには何をしてもいい」という思いが、ホールの空気を変え、奏者も観客をも揺さぶる指揮として表れる。少年時代の佐渡さんを惹きつけた“凄い瞬間”を、佐渡さん自身が生み出す側になったのだ。

 

バーンスタインの指揮を見たことがなく、オーケストラ版のキャンディードすら聴いたことがなかったので、読み終わってから上の動画を見た。素人目にも自由で闊達で、色気、茶目っ気がある。欲しい音を引き出すための指揮とは、こういうものなのだろうか。佐渡さんも年をとったらこうなるのだろうか。そもそもこんなにしっかり指揮者のことを考えたことがなかった。いろんな指揮者を見てみたくなった。

 

 

動画の最後で、演奏後すぐに取り出した眼鏡は、大量の演奏旅行用品の話の中でも触れられていた七つの眼鏡のひとつなのだろう。

 

佐渡裕『僕はいかにして指揮者になったのか』新潮文庫

 http://www.amazon.co.jp/dp/4101335915